▽管理監督者の判断基準
1.管理監督者の範囲は適正か?
労働基準法第41条第2号により、事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位に
ある者(いわゆる管理監督者)は、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない。
(▲ただし、深夜業に関する規定と年次有給休暇の規定は適用される。)
「管理監督者」とは、一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について
経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべき
である。(昭和22.9.13発基17号、昭63.3.14発揮150号)
2.管理監督者の判断基準
(1)日本マクドナルド事件(東京地裁、H20.1.28)
■概要
日本マクドナルドが店長を管理職扱いにして残業代を認めないのは違法として、
埼玉県内の直営店店長が約1,300万円の未払いの残業代と慰謝料などを求めた訴訟
の判決で、東京地裁は、「管理監督者には当たらない」と述べ、残業代など計約750万円
の支払いを命じた。(名ばかり管理職)
★判断基準(ポイント)
労働基準法にいう管理監督者といえるためには、店長が、店長の名称だけでなく、
実質的に法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、
具体的には、
①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め企業全体の事業経営に関する
重要事項にどのように関与しているか、
②その勤務態様が労働時間などに対する規制に馴染まないものであるか否か、
③給与及び一時金において、管理監督者に相応しい待遇がされているか否か
などの諸点から判断すべきである。
☆判決
同店長は、①店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、
従業員の勤務シフトの決定など、店舗運営において重要な職責を負ってはいるものの、
店長の職務、権限は店舗内の事項に限られ、企業経営上の必要から経営者と一体的な立場
において労働基準法の労働時間などの枠を超えて事業活動することを要請されても
やむをえないものといえる重要な職務と権限を付与されているとは認められず、
②自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して上司の許可を得る必要は
ないなど、形式的には労働時間に裁量があるといえるが、実際には
会社の要求する勤務態勢上の必要性から法定労働時間を超える長時間の時間外労働を
余儀なくされており、労働時間に関する自由裁量があったとは認められず、
③店長に次ぐ地位にある者の賃金との差額は少額であり、また同店長の勤務実態などを
考慮すると、店長の賃金は管理監督者に対する待遇として十分であるとはいい難く、
同店長は管理監督者に当たらない。
したがって、会社は、未払の時間外割増賃金・休日割増賃金等を支払う義務がある。
(2)東和システム事件(東京地裁、平成21.3.9)
■概要
課長代理の肩書を管理職とみなして、残業代を支払わないのは不当として、
ソフトウエア開発会社の社員3人(SE)が残業代など計約1億700万円の支払いを求めた
判決で、裁判官は「部門全体を統括する立場になく管理職といえない」として、
同社に計約4500万円の支払いを命じた。
★判断基準(ポイント)
残業代の支払い義務のない、
労働基準法の「管理監督者」に該当するかどうかの判断基準として、
①部門全体の統括的な立場、
②部下に対する労務管理上の決定権、
③管理職手当などの支給、
④自分の出退勤の決定権等があげられた。
☆判決
①顧客が決めるスケジュールに拘束されて出退勤の自由もなく、
また②プロジェクトチームのメンバーや下請け会社の決定権もなく、
経営者と一体的な立場にある労働基準法上の管理監督者とは言えないと判断し、
時効分を除く未払い残業代のほぼ全額を支払うよう命じた。
3.管理監督者の要件を充たすヒント
(1)権限(経営者と一体)
・経営会議に参加。・部下に対する人事権。
・採用面接を行うなど採用にも権限がある。
・自らの意思決定で仕事を進めることができる。
(2)労働時間(厳格な制限を受けていない)
・遅刻、早退しても控除されない。
▲業務に関連しないところでの欠勤は一般労働者と同じく 控除してもかまわない。
(3)待遇(管理監督者以外との比較)
・基本給+管理監督者手当>従来の基本給+役職手当+時間外手当