副業・兼業の促進に関するガイドライン ▽平成30年1月厚生労働省公表
■副業・兼業の現状
1. 副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にある。
副業・兼業を行う理由は、自分がやりたい仕事であること、スキルアップ、資格の活用、十分な収入の確保等さまざまであり、また、副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主等さまざまである。
2.多くの企業では、副業・兼業を認めていない。
企業が副業・兼業を認めるにあたっての課題・懸念としては、自社での業務がおろそかになること、情報漏洩のリスクがあること、競業・利益相反になること等が挙げられる。
また、副業・兼業に係る就業時間や健康管理の取扱いのルールが分かりにくいとの意見がある。
3. 副業・兼業自体への法的な規制はないが、厚生労働省が平成29年12月時点で示しているモデル就業規則では、労働者の遵守事項に、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定がある。
4.裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由である。
各企業においてそれを制限することが許されるのは、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合と考えられる。
■副業・兼業の促進の方向性
1.副業・兼業は、労働者と企業それぞれにメリットと留意すべき点がある。
●労働者メリット
①離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
②本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができ
る。
③所得が増加する。
④本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。
●留意点:
①就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。
②職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要である。
③1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要である。
●企業メリット
①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
②労働者の自律性・自主性を促すことができる。
③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。
●留意点:
①必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、
②職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応
2.副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる。
●労働者が副業・兼業を行う理由
自分がやりたい仕事であること、十分な収入の確保等さまざまであり、業種や職種によって仕事の内容、収入等も様々な実情があるが、自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮したい、スキルアップを図りたいなど
■企業の対応
1.裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。
副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。
また、実際に副業・兼業を進めるにあたっては、労働者と企業双方が納得感を持って進めることができるよう、労働者と十分にコミュニケーションをとることが重要である。
2.副業・兼業を認める場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等がないか、また、長時間労働を招くものとなっていないか確認する観点から、副業・兼業の内容等を労働者に申請・届出させることも考えられる。
3.労働時間に関する規定の適用については、通算するとされていることに留意する必要がある。また、労働時間や健康の状態を把握するためにも、副業・兼業の内容等を労働者に申請・届出させることが望ましい。
■労働者の対応
1.労働者は、まず、自身が勤めている企業の副業・兼業に関するルール(労働契約、就業規則等)を確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要がある。
また、実際に副業・兼業を行うにあたっては、労働者と企業双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と十分にコミュニケーションをとることが重要である。
2.副業・兼業を行い、20万円を超える副収入がある場合は、企業による年末調整ではなく、個人による確定申告が必要である。
■副業・兼業に関わるその他の現行制度について
1.労災保険の給付(休業補償、障害補償、遺族補償等)
労災保険制度は労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保するものであるため、その給付額については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定している。
また、労働者が、一の就業先から他の就業先への移動時に起こった災害については、通勤災害として労災保険給付の対象となる。
※事業場間の移動は、当該移動の終点たる事業場において労務の提供を行うために行われる通勤であると考えられ、当該移動の間に起こった災害に関する保険関係の処理については、終点たる事業場の保険関係で行うものとしている。
2.厚生年金保険、健康保険
社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、事業所毎に判断するため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合、労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、適用されない。
また、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合、「二以上勤務届」が必要となる。