H13/12~
▽過労死と労災
1.基準策定の背景
脳や心臓の疾患を原因とする死亡は、国民の死亡者の3割を占めるに至っている。
これらの脳・心臓疾患は、仕事が主な原因で発症する場合もあり、「過労死」とも
呼ばれている。厚生労働省は、これまで脳・心臓疾患の労災認定に当たって、主として
発症前1週間程度の期間における業務量、業務内容等を中心に業務の過重性を評価して
きたが、平成13年12月、長期間にわたる疲労の蓄積についても業務による明らかな
過重負荷として考慮することとし、「脳・心臓疾患の認定基準」が改正された。
2.脳・心臓疾患の認定基準とは?
●認定基準
業務上の疾病と労災認定できる要件を示したもの
●脳・心臓疾患の認定基準
脳・心臓疾患を労災認定する上での基本的考え方、対象疾病、認定要件を示したもの
(1)基本的考え方
脳・心臓疾患は、日常生活や遺伝等による諸要因により形成され、
それが徐々に進行及び増悪して、あるとき突然に発症する。
しかし、仕事が特に過重であったために、脳・心臓疾患が発症することがあり、
このような場合には、仕事が、相対的に有力な原因となったものとして、
労災補償の対象となる。
(2)対象疾病
○脳血管疾患
脳内出血(脳出血) 、くも膜下出血 、脳梗塞 高血圧性脳症
○虚血性心疾患等
心筋梗塞 、狭心症 、心停止(心臓性突然死を含む。) 、解離性大動脈瘤
(3)認定要件
業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患
3.業務による明らかな過重負荷とは?
●「業務による明らかな」とは?
発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていること。
●「過重負荷」とは?
医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を
超えて著しく憎悪させ得ることが客観的に認められる負荷。
(1)発症の原因
○業務による明らかな過重負荷(業務上)
×業務以外による過重負荷(業務外)
×発症の基礎となる血管病変等の自然経過(業務外)
4.認定要件1=「異常な出来事」
発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に的確にしうる
異常な出来事に遭遇したこととは?
●異常な出来事(3つの負荷)
(1)精神的負荷
極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は
予測困難な異常な事態
例)業務に関連した重大な人身事故や事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた
(2)身体的負荷
緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態
例)事故の発生に伴って、救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた
(3)作業環境の変化
急激で著しい作業環境の変化
例)野外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や
特に温度差のある場所への頻回な出入り
●評価期間:発症直前から前日
●過重負荷の有無の判断
次の項目について検討し、客観的かつ総合的に判断する。
(1)通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、
その程度が甚大であったか
(2)気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったか
5.認定要件2=「短期間の過重業務」
発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこととは?
●特に過重な業務とは?
日常業務〈通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。〉に比較して、
特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる仕事。
●評価期間:発症前おおむね1週間
●過重負荷の有無の判断
業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚労働者又は、同種労働者
(*同僚等という)にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという
観点から、客観的かつ総合的に判断する。
*同僚等
脳・心臓疾患を発症した労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者
の他、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者をいう。
●業務と発症との時間的関連性
次のいずれかの場合には、業務と発症との時間的関連性があると考えられる。
(1)発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか否か
(2)発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合
●具体的な負荷要因
労働時間 、不規則な勤務 、拘束時間の長い勤務 出張の多い業務、
交替制勤務・深夜勤務 、作業環境(温度環境・騒音・時差) 、精神的緊張を伴う業務
6.認定要件3=「長期間の過重業務」
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
とは?
●疲労の蓄積
恒常的な長時間労働等の負荷が長時間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が
生じ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症前の一定期間の
就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から
判断する。
●評価期間:発症前おおむね6ヶ月間
●過重負荷の有無の判断
業務量、業務内容、作業環境等具体的な負荷要因を考慮し、同僚等にとっても、
特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、
客観的かつ総合的に判断する。
●労働時間の評価の目安
発症日を起点とした1ヶ月単位の連続した期間をみて、次の3点を踏まえて判断する。
(1)発症前1ヶ月間ないし6ヶ月にわたって、1ヶ月当たり概ね45時間を超える時間外
労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱い。
*「発症前1ヶ月間ないし6ヶ月間」は、すべての期間をいう。
(2)概ね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に
強まる。
(3)発症前1ヶ月間に概ね100時間又は
発症前2ヶ月間ないし6ヶ月にわたって、1ヶ月当たり概ね80時間を超える時間外労働
が認められる場合は、業務と発症との関連性が強い。
*「発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間」は、いずれかの期間をいう。