▽労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)に関する判例
■長澤運輸事件(概要)
定年後に再雇用されたトラック運転手の嘱託社員3人(63~64歳)が、定年前と仕事内容が全く同じなのに、賃金を減額(2~3割)されたのは労働契約法20条が禁じる「不合理な格差」に当たるとして、正規社員との賃金差額を支払うよう求めた。
★ポイント
1.賃金は、項目ごとに趣旨が異なるため総額だけではなく、
項目の趣旨を個別に考慮すべきだ。
2.長期雇用を前提とした正社員と定年再雇用の嘱託社員とで、
会社の賃金体系が異なる。
3.賃金格差が不合理だとしても、正社員と同じ賃金体系を自動的に適用する
理由はなく、不法行為に対する損害賠償として差額支払いのみを認める。
4.定年退職後の再雇用などで待遇に差が出ること自体は不合理ではない。
☆判決
1.定年後再雇用で仕事の内容が変わらなくても、基本給や大半の手当、賞与を支給
しないのは、3人が近く年金が支給される事情などを踏まえ、格差は「不合理では
ない」として請求を退けた。
2.精勤手当(月額5千円)については、嘱託社員に支給されないのは不合理とし、
この部分の高裁判決を破棄し、相当額の支払いを命じた。(1人5~9万円)
|
正社員 |
嘱託社員 |
不合理性 |
基本給 |
11.2万~12.1万 |
12.5万 |
×無 |
職務給 |
8.2万 |
なし |
×無 |
精勤手当 |
5千円 |
なし |
○有 |
住宅手当 |
1万円 |
なし |
×無 |
家族手当 |
5千円 |
なし |
×無 |
賞与 |
基本給の5か月分 |
なし |
×無 |
▲経緯
1審 (東京地裁H28.5.13) |
賃金引き下げは不合理 |
2審 (東京高裁H28.11.2) |
賃金引き下げは社会的に容認されて おり不合理ではない |