日本郵便事件(東京地裁判決 H29.9.14)
▽労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)に関する判例
■概要
日本郵便(東京都千代田区)の非正規社員3人が、正社員との間で手当などに格差があるのは違法だとして計約1500万円の支払いなどを求めた。
△ポイント
1.3人の職務内容、賃金規定などを検討し、年末年始勤務手当について「最繁忙期の
勤務に対する対価で、非正規社員に支払われないのは不合理」、住居手当について
「転居を伴う異動のない正社員にも支給され、非正規社員に支給されていないのは合
理的ではない」と判断。
2.労働契約法20条については、同一労働同一賃金の考え方を採用したものではな
く、正社員と非正規社員の間で賃金制度上の違いがあることを許容する。
☆判決
1.非正規社員に年末年始勤務手当や住居手当が全く支給されないのは違法と認め、
手当支給が正社員の長期的な勤務への動機づけになる点などを踏まえ、年末年始勤
務手当の8割、住居手当の6割を損額と算定し、計約90万円の賠償を命じた。
(原告に対象者がいなかったため、扶養手当は請求していなかった。)
2.夏季年末手当、早出勤務手当、祝日給などの格差解消については、業務の幅広さや
配置転換の有無の違いを踏まえれば、職務内容や責任に差があり不合理とは言えな
いとして請求を退けた。
3.将来にわたり正社員と同じ待遇を求めた地位確認については、不合理な労働条件の
解消は労使間の交渉結果も踏まえて決定されるべきだとして却下した。
4.お盆や年末年始の特別休暇と有給の病気休暇がないことは損害の請求はなかったが
「不合理な相違」と判断した。
日本郵便事件(大阪地裁判決 H30.2.21)
▽労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)に関する判例
■概要
大阪、兵庫、広島3府県の郵便局で働く日本郵便の契約社員8人が、正社員と同じ仕事をしているのに手当などに格差があるのは違法だとして、同社に計約3100万円の損害賠償を求めた。
△ポイント
1.日本郵便の手当ごとに支給要件や内容を検討し、以下3つの手当は「正社員に支給され、契約社員に支給されないのは不合理」と判断した。
(1)年末年始勤務手当は年末年始に働いたことに支給される。
(2)住居手当は家賃や購入額の負担軽減という目的
(3)扶養手当は扶養親族の有無で支給される。
☆判決
1.一部手当の格差を違法と認め、計約300万円の支払いを命じた。
(1)契約社員には支給されない年末年始勤務手当(1日4000~5000円)や、
転居を伴う異動がない正社員に支給される住居手当(月最大2万7000円)
の格差は不合理である。
(2)正社員が対象の扶養手当(配偶者で月1万2000円など)について、親族の生
活を保障するもので、職務内容によって必要性が大きく左右されないので、
不合理である。
2.年末年始勤務と住居の両手当の不払いについては、同社の契約社員が起こした同様
の訴訟で昨年9月の東京地裁判決も「不合理」と認めたが、支給すべき額はそれぞ
れ正社員の8割、6割と算定。しかし大阪地裁は正社員と同額の支払いを命じた。
3.正社員と同じ地位確認を求めた請求については「不適法」として却下した
4.夏期、冬期、病気の各休暇が取得できるかについては判断を示さなかった。
5.夏期・年末手当(賞与)については、「正社員への支給を手厚くするのは人事上の
施策として一定の合理性がある」として請求を退けた。
手当ごとの格差違法性 |
東京地裁 |
大阪地裁 |
外務業務手当 |
×無 |
×無 |
郵便外務業務精通手当 |
×無 |
×無 |
年末年始勤務手当 |
8割有 |
○有 |
早出勤務等手当 |
×無 |
×無 |
祝日給 |
×無 |
×無 |
夏期年末手当(賞与) |
×無 |
×無 |
住居手当 |
6割 |
○有 |
扶養手当 |
― |
○有 |
夏期冬期・病気休暇 |
○有 |
― |