∇H31.4.1(中小企業はH32.4.1)~施行
■残業の罰則付き上限規制(概要)
平成30年6月29日に、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、同一労働同一賃金の実現を目的とした、働き方改革関連法が成立し、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、パートタイム労働法など8本の法律が一括して改正された。
そして、70年前(1947年)に制定された労働基準法における初めての大改革として、残業時間の上限が法律で定められた。
☆改正内容のポイント
1.残業時間の上限
現行法では、法律上、残業時間の上限はありませんでしたが、改正により、法律で
残業時間の上限を定め、これを超える残業はできなくなる。
(1)原則
36協定締結による、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間と
なり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない。
(2)例外
特別条項付き36協定締結による、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時
間、月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)
で、原則である45時間を超えることができるのは、年間6回までとなる。
★現行法との比較表
残業上限 |
現行法 |
改正法(労働基準法36条) |
原則 (36協定締結) |
・月45時間 ・年360時間 (告示による) |
告示から労働基準法に格上げ(第4項) |
例外 (特別条項付き 36協定締結) |
・延長時間上限なし ・年間6回まで
|
・年720時間(第6項) ・月100時間未満 (法定休日労働含む) ・複数月平均80時間以内(同上) ・年間6回まで |
2.施行期日
平成31年(2019年)4月1日。ただし、中小企業については、1年後の
2020年4月1日とした。
3.法律格上げ=罰則適用
厚生労働大臣告示である「時間外労働の限度基準」の内容を、労働基準法に格上げし
たので、違反した場合には、罰則(6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が適用
される。法違反に対する罰則を適用させるために格上げしたとも言える。
4.留意事項
現行法では、告示の残業上限には法定休日労働は別カウントとし、含めないが、改
正法例外(特別条項付き36協定)の月100時間未満と複数月平均80時間以内に
ついては法定休日労働も含まれるので留意が必要である。これは、労災の過労死認定
基準を考慮したものといえる。
5.適用猶予・除外の事業・業務
自動車運転業務、建設事業、医師等は、上限規制の適用が5年後とし、新技術・新
商品等の研究開発業務は、上限規制が適用されない。
▲なお、年収1,075万円以上の高度専門職について新設される「高度プロフェ
ショナル制度」対象者は、労働時間等に関する規定の適用除外となるため、残業の上
限規制も適用されない。
6.終わりに
法改正を前にして、社内体制や規定の見直しとあわせ、職場全体の意識改革、取引
慣行の改善なども必要と思われる。
特定社会保険労務士 小高 東
■時間外上限規制Q&A
Q1.施行前(大企業は2019年3月31日まで、中小企業は2020年3月31日まで)と施行
後(同年4月1日以後)にまたがる期間の36協定を締結している場合には、4月1日
開始の協定を締結し直さなければならないか。
A1.経過措置によって、施行前と施行後に跨がる期間の36協定を締結している場合には、その協定の初日から1年間に限っては、その協定は有効となる。したがって、4月1日開始の協定を締結し直す必要はなく、その協定の初日から1年経過後に新たに定める協定から、上限規制に対応すればよい。
Q2.中小企業は上限規制の適用が1年間猶予されるが、その間の36協定届は従来の様
式で届け出てもよいか。
A2.適用が猶予される1年間については、従来の様式でかまわない。なお、上限規制
を遵守する内容で36協定を締結する場合には、新様式で届け出てもかまわない。
Q3.「常時使用する労働者」の数はどのように判断するのか。
A3.臨時的に雇い入れた労働者を除いた労働者数で判断する。なお、休業などの臨時
的な欠員の人数については算入する必要がる。パート・アルバイトであっても、臨時
的に雇い入れられた場合でなければ、常時使用する働者数に算入する必要がある。
Q4.「常時使用する労働者数」を算定する際、出向労働者や派遣労働者はどのように
取り扱えばよいか。
A4.労働契約関係のある労使間に算入する。在籍出向者の場合は出向元・出向先双方
の労働者数に算入し、移籍出向者の場合は出向先のみの労働者数に算入する。派遣労
働者は派遣元の労働者数に算入する。
Q5.時間外労働と休日労働の合計が、2~6か月間のいずれの平均でも月80時間以内
とされているが、この2~6か月は、36協定の対象期間となる1年間についてのみ計
算すればよいか。
A5.時間外労働と休日労働の合計時間について2~6か月の平均で80時間以内とする
規制については、36協定の対象期間にかかわらず計算する必要がある。なお、上限規
制が適用される前の36協定の対象期間については計算する必要はない。
Q6.「休日労働を含んで」というのはどういった意味か。休日労働は時間外労働とは
別のものなのか。
A6.労働基準法においては、時間外労働と休日労働は別個のものとして取り扱う。
今回の改正によって設けられた限度時間(月45時間・年360時間)はあくまで時間外
労働の限度時間であり、休日労働の時間は含まれない。
一方で、今回の改正による、1か月の上限(月100時間未満)、2~6か月の上限
(平均80時間以内)については、時間外労働と休日労働を合計した実際の労働時間に対
する上限であり、休日労働も含めた管理をする必要がある。
Q7.どのような場合に、法違反となるのか。
A7.
(1)36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合
→労働基準法第32条違反となる。(6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)
(2)36協定で定めた時間数にかかわらず、時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間以上となった場合や、時間外労働と休日労働の合計時間について、2~6か月の平均のいずれかが80時間を超えた場合
→労働基準法第36条第6項違反となる。(6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)